カタリベ

モノがたり。好きなものを好きなように。

少し先の未来をカーブミラーで見る。

f:id:touou:20200319201830j:plain

今を見ることが未来を見ること。

 

 

君がいつも通る道で待ち伏せ

偶然出会ったフリをして君を驚かせよう。

 

風が強い。手が冷たい。

君はなかなかやってこない。

いつもならとっくに来ていてもおかしくないのに。

 

君の身になにかあったのだろうか。冷えた手に息を吐きかける。

隠していた身を乗り出してあたりを見渡す。

君の姿は見えない。

なにやら胸騒ぎがして、ポケットからスマホを取り出す。

君の連絡先を開いたところで、君の姿が見えた。

 

急いで陰に身を寄せる。

胸騒ぎは落ち着いたけれど、君の驚く顔を想像したら違う胸が騒ぎはじめた。

君が近づいてくるたび鼓動は高鳴り、からだはあったまってくる。

 

なにしてるの?

君はいつもどおりの表情と声色で言う。

君の前に急に現れたのに、いつもどおり。

少しも驚いた素振りを見せることなく。

 

ずっと見えていたよ。

君はカーブミラーを指差す。

 

いや、別に。

僕が言えることはこのくらい。

 

苦し紛れに笑ってみると、君も笑った。

 

少し先の未来さえも見えない僕が、いつまで君と居られるのかなんてわかるわけもない。

だから少しだけ。

ほんの少しだけ、君の前を歩くことにした。

 

君と一緒に居られる時間を少しでも長くするために。

風は冷たいままだから、君に手を差し出した。