少し先の未来をカーブミラーで見る。
君がいつも通る道で待ち伏せ。
偶然出会ったフリをして君を驚かせよう。
風が強い。手が冷たい。
君はなかなかやってこない。
いつもならとっくに来ていてもおかしくないのに。
君の身になにかあったのだろうか。冷えた手に息を吐きかける。
隠していた身を乗り出してあたりを見渡す。
君の姿は見えない。
なにやら胸騒ぎがして、ポケットからスマホを取り出す。
君の連絡先を開いたところで、君の姿が見えた。
急いで陰に身を寄せる。
胸騒ぎは落ち着いたけれど、君の驚く顔を想像したら違う胸が騒ぎはじめた。
君が近づいてくるたび鼓動は高鳴り、からだはあったまってくる。
なにしてるの?
君はいつもどおりの表情と声色で言う。
君の前に急に現れたのに、いつもどおり。
少しも驚いた素振りを見せることなく。
ずっと見えていたよ。
君はカーブミラーを指差す。
いや、別に。
僕が言えることはこのくらい。
苦し紛れに笑ってみると、君も笑った。
少し先の未来さえも見えない僕が、いつまで君と居られるのかなんてわかるわけもない。
だから少しだけ。
ほんの少しだけ、君の前を歩くことにした。
君と一緒に居られる時間を少しでも長くするために。
風は冷たいままだから、君に手を差し出した。