カタリベ

モノがたり。好きなものを好きなように。

山ほど買ったファブリーズの使い方。

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こびりついた匂いと記憶をまっさらに。

 

 

あなたの匂いを消すことにした。

いろいろ迷ったけれど、私の決心。

 

見えなくなったとしても残る、あなたの匂い。

そのたび、あなたを思い出してしまうから。

 

私にとっては甘い香り。

ほかの誰にもわからない。

あなたが居たところにも触ったところにも、すべて吹きかける。

部屋の隅々に、持っている服すべてに。

 

クローゼットの中は、すっかりあなた色に染まってしまった。

あなたに喜んでほしくて買った服ばかり。

あなたのために、私のために。

捨てる決心なんて、できやしない。

 

あなたのせいで、私の好みも変わってしまった。

あなた好みだった服は、今では私好み。

服に罪はない。

あなたにも、私にも。

 

だから、せめて、あなたの匂いを消す。

シュッ、シュッ、シュッ、シュッ。

あっちもこっちもあれもこれも、吹きかける。

シュッシュッ、シュッシュッシュッ。

リズムを刻んで吹きかける。

 

あなたを忘れることは、きっとできないから。

 

ありとあらゆるところに吹きかけたあと、私は思い切り息を吸う。

 

うん、大丈夫。

そう言いながら、息を吐いてもう一度吸う。

 

あなたの香りはなくなった。

目を閉じ両手を広げて、背伸びをする。

思い浮かんでくるあなたの顔は、笑っていた。